お前だって俺のこと全然知らないだろ、と思った。

思ったのに何も言う気にならなかったのは、あいつが本気で俺を悪く言う女たちに言い返したことを知ったからで。



「……先生は恭のこと嫌いですか?」



「んー……教師の立場からすれば、いいとは、言えないよね。

でも俺個人は、ああいう生き方でもいいんじゃないかなって」



だろうな。

今はまともな保健医やってるけど、もともと藍華のメンバーだしな……と、顔見知りの発言にため息をつく。



「ですよね。……ふふっ。

わたし……恭のこと、すごく好きなんです」



「……そうなんだ」



「善し悪しなんて関係なくて、ただまっすぐで。

……好きになって欲しいとかそういうことも思いますけど、今はそばにいられるだけでうれしくて」




赤裸々に打ち明けて。

そんなんだからすぐ利用されるんだろ、なんて思うのに。それと同時に浮かんだ『放っておけない』って感情に、自分でもおどろいた。



「……はやく夏休み終わんないかなぁ。

あ、先生ありがとうございました」



「どういたしまして。

花蔵がいまの話聞いたら、きっと喜ぶよ」



……余計なことを。

「ふふっ」とうれしそうに笑うあいつの声が聞こえたかと思うと、数秒後には保健室の扉が開閉される音がする。そして。



「だよね? 恭」



「うるせーよ」



シャッとカーテンが開いて笑顔を見せる保健医に、チッと舌打ちする。

……よりによってコイツに話してんじゃねーよ。