翌日、その女は昼休みに訪れた。

「明日からもちゃんと来るから」と言って。



毎日毎日、ご丁寧に昼休みにだけ。

聞いてもいないのに自分の話ばかりするから、たった1ヶ月で俺の頭の中には「西澤鞠という女には10歳離れた妹がいる」という情報がインプットされた。



ちなみに妹の名前は蒔らしい。

心底どうでもいい。



「ねえ、恭」



たった1ヶ月で、勝手に呼び方は名前に変わった。

あと変わったことと言えば、いつもは昼休みが終わるまでずっと寝たふりを続けていたのが、面倒になって普通に飯を食うようになったってだけ。



「わたし、恭のこと好きなんだけど」



……ああ、これが一番デカかった変化か。




梅雨の雨の日。屋上は使えない。

防音の旧音楽室で、面倒な女とふたりきり。



囁くように伝えられた言葉は、

どこかひそやかで背徳的で、現実味がなかった。



「……冗談言うなら、せめて笑えるやつにしろよ」



「冗談じゃないんだけど」



「本気って? そっちのほうがまだ笑えるわ」



入学して2ヶ月。出会ってからは1ヶ月。

毎日毎日一方的に話しかけるだけで、返事もしない男に対して「好き」だなんて、冗談にもならない。



意図的に孤立している俺のそばにいるからって、変に調子に乗られても困る。

それにそもそも勝手に寄ってくるだけで、俺の中で面倒な女っていう認識は変わらない。