「お断りします」
『ああ、それは構わないのですが……
社長のご指示で既に鞠お嬢様のドレスをそちらにお送りさせていただいてるんです』
「………」
チッ、と、内心で舌打ちする。
はじめから断らせる気なんてないじゃない。
『なんでしたら、蒔お嬢様の面倒は私が、』
「結構です。
友人に面倒を見てもらえないか頼みます」
それだけ言って、『では詳細は一緒に入っている招待状に』と告げる彼との会話を終わらせるため、電話を切る。
その後すぐに漏れたのはため息で。
「来月? 予定なかったら別にいいけど」
「ごめん、夏休み中だからたぶん大丈夫だと思うんだけど……
どうしても蒔のこと連れて行けそうになくて」
翌朝、いつものように蒔を集団登校の近くまで見送ってからハセに「蒔の面倒を見て欲しい日がある」と伝えれば、彼は快くうなずいてくれた。
まだドレスと招待状が届いていないから日程はわからないのだけれど、分かったらすぐに連絡すると伝える。
「でもめずらしいな。
いつも蒔優先にするお前が予定入れるなんて」
「いや、絶対行かなきゃいけないっていうか……
断ろうと思ったんだけど無理だった」
「なに、変に脅しとか受けてんなら言えよ?」
心配そうにわたしの顔を覗き込むハセ。
「そうじゃないんだけど」って笑って誤魔化せば、彼は「ならいいけど」ってわたしの頭を撫でた。



