蒔が眠ったあと、起こさないようにベッドを抜け出して。
課題を抱えてリビングに移動すると、スマホが着信を受ける。誰なのかはわかりきっているから、「はい」と相手も見ずに電話に出た。
『夜分遅くに失礼します。
鞠お嬢様、周辺にお変わりはありませんか?』
「……あったら連絡するっていつも言ってますよね。
あと、鞠お嬢様って呼ぶのやめてください」
『お変わりないようでしたら何よりです。
社長もいつも心配されておりますので』
誤魔化された。
というか、どの口が言うんだ。どうせ端から心配なんて、してないくせに。
『蒔お嬢様はお元気でしょうか?』
蒔の寝言が、脳裏に焼き付いて離れない。
いつも笑顔でいてくれてるけど、平気なはずがないのに。
「元気にしてます。それじゃあ、」
『あ、お待ちください鞠お嬢様』
「……なんですか」
『来月、社長の誕生日パーティーが行われる予定で。
よろしければ、鞠お嬢様に参加していただけないかと』
くっと、眉間が寄る。
……なんで、そこにわたしを参加させたいのか。
『蒔お嬢様にもぜひ参加していただきたかったのですが、蒔お嬢様には社長のことを黙っておられるのですよね?
ですので、せめて鞠お嬢様だけでもどうかと』
イライラする。
自分の利益のためになら、手段を選ばない人間って。心底嫌いだ。



