夢中になってたら、不意に隣の部屋から「鞠ー」とお母さんの声。
それにハッとして離れると、横開きの扉をあけて「どうしたの?」と顔を覗かせる。
「今日の夕飯の買い出し、した?
まだならお母さんが行ってこようと思って」
布団から身を起こして、髪を掻き上げるお母さん。
隣の布団では蒔がすやすやと眠っていて、くまのぬいぐるみが添い寝していた。
「夕飯くらいなら、冷蔵庫にあるもので作れるから平気。
せっかくのお休みなんだからゆっくりしてて」
「せっかくの休みなんだから、用事しなきゃ。
いつも鞠に任せっぱなしでしょう?」
「大丈夫だよ。
たまには蒔と添い寝してあげて」
ね?と念を押して、手前のリビングに戻る。
お世辞にも新しいとは言えないアパートに、3人暮らし。女3人だから、恭がこうやって来てくれている時は、そこはかとなく安心感がある。
「今度、恭の家に行ってもいい?」
「あー……いい、けど」
「ほんと? じゃあ手土産持ってくね」
「気、遣わなくていーから。
……親、仕事でめったに帰ってこねえし」
ご両親、いそがしいのかな。
……というか、わたしは母親がひとりで養ってくれてることも父親を知らないことも恭に話しているけど、恭はあまり家庭事情を話したがらない。
付き合ってから教えてくれることも増えたけど、どちらかといえば藍華の話が多かった。
それはきっと、家よりも藍華にいる時間が長いからで。
「お邪魔します」



