耳元で何度も何度も、可愛いと囁かれる。

他の人は、こんなにも恭が彼女にだけは優しいことも、甘いことも、きっと知らない。



「……あと、お前外にいたら目立つから。

閉じ込めて俺にしか見えねーようにしたくなる」



「っ、」



「思ってたより独占欲強ぇのかもな」



「わたしも、

ほかの女の子に恭のこと見られるのやだ……」



「だから、可愛いこと言うなって。

お前はこれ以上俺のことをどうしたいんだよ」



ソファが時々、キシリと音を立てる。

せっかく借りてきた映画も時々視界をチラつく程度で、まったく頭には入ってこない。




「……ずっとわたしだけに夢中でいてほしいの」



「もう十分そうなってる」



出会った時よりもさらに男の人らしくなった恭。

彼のその腕に抱き締められながら、これからもずっと一緒にいたいと思った。



熱のこもるふたりきりのリビング。ソファの上で、お互いの余裕なんてものはなくなっていく。

愛しい人に求められながら、不意に出会った時のことを思い出した。



あの時は、小さなアパートで生きるのに精一杯で。

仕方なく教師に押し付けられて、恭に会いに行っていたけれど。……いま思えば、それがなければこんな風に恭と付き合うこともなかった。



「……ずっと一緒にいような」



これから先も、何が起こるかなんて分からないけれど。

それでも言える。──きっと、この人生は、楽しい。



【 あの日できなかったこと 】



あの日恭に何も話せず別れることを選んだ鞠と、あの日鞠を自ら救えなかった恭。お互いにできなかったことを、今度こそやり遂げたふたり。永遠に幸せでいられますように。