おかげで蒔は、毎日笑ってる。
俺が家に行く度、「きょーちゃん!」と屈託のない笑顔で出迎えてくれる。
「恨むなんてつまんねーことしてる暇あったら、
他にできることやった方がよっぽど良いだろ」
俺は花蔵のことも橘花のことも、特別だと思ってるわけじゃない。
自分が花蔵の家に生まれていなかったとしても。鞠が橘花の人間じゃなかったとしても。……俺は鞠を好きになっただろうし、同じように一緒に生きていくための術を探したはずだ。
「そもそも契約を切られた理由、知ってるの?
最初はフルールの社長直々に認められた製品づくりをしていたのに、金が大量に舞い込んできたことで機械を何個も導入して、人件費を削減した。……だから職人の手によって作られてた完璧な製品が作れなくなった」
「、」
「フルールの社長が求めていたのは、職人の手で作られてた製品。
機械で作り始めてから質が落ちて欠陥品も増えた。挙句、それを突きつけても君の家族は納得のいかない顔をして、納期さえ守らなくなり始めた」
それが限界に達したから、契約を切られたのだと。
なずなの言うそれに困惑の表情を浮かべているあたり、その話なんて知りもしなかったんだろう。
「家族にどうせ恭の家が悪いだのなんだの言われたんだろうけど。
……恨む前に正しい情報を掴むべきだと思うよ」
「……、悪かった」
ぽつ、と。
口を開いたかと思うと、存外素直な謝罪の言葉。
「こんなひねくれた性格してっから。
……どういう経緯でそうなったのか、家で直接聞くこともできず、ただ"花蔵が憎い"ってその言葉通りに、お前の家のことを恨んでた」
「………」
「下のヤツらが、"花蔵の彼女"と出逢って。
……その時に、これは使えると思った。だから、存分に利用して、苦しめてやろうと思った」
彼女にも謝っておいてくれ、と。
頼まれて、ため息をつく。それからスマホを取り出し相手を呼び出せば、俺からの連絡を待っていたのか一瞬で彼女は電話に応じた。



