問われて、記憶を遡る。

我ながら男との関わりはほとんどないせいで、すぐに思い出せそうなのに。思い当たらなくて首を傾げれば、目の前の男はフッと笑った。



「忘れられて哀しいなぁ。

今日は、大好きな"彼氏"呼ばなくていーの?」



「あ、」



思い出した。



あすみくんと出逢い、恭と再会するキッカケになった出来事。

結構な大事(おおごと)だったにも関わらず、すっかり忘れていた。……藍華の下っ端の3人を、それに勝つ人数でいじめていた相手だ。



「どうしてわたしのところに?」



そこの角を曲がったところに、橘花の送迎車がある。

わざと騒がしくすれば、異変に気づいて来てくれるだろう。橘花の選りすぐりのエリートが、ただの高校生相手に負けるわけがない。




「今日アイツらが、ウチに乗り込んでくる。

……まあ、そんなの、ウチが正攻法で迎え撃つわけがない」



「とっても汚いわね」



「お前を拉致すれば、アイツらは絶対に動く」



"こういう"危険に晒したくないから、あすみくんはリカちゃんの存在を今まで幹部にも黙っていた。

みんなに知られた今でも、学校ではクラスメイトを装い、ふたりが外で行動を共にすることはほとんど無い。



リカちゃんは、ちょっと寂しいようだけど。

それがあすみくんの愛であることは、言わずもがなだ。



「っつうわけで。……連れてけ」



「っちょ、何するのよ」