電話を終えて、財布を開けようとすれば。

飽き足らず酒を呷る黒田さんに止められた。



「俺が出しといてやるよ。

その代わり、はやくわがままお嬢様のところに帰ってやれ」



「……、そういや、なんで電話分かったんすか」



「俺が今日ここに来る直前に、合コンに行くはずのお嬢様が"恭の家に遊びに行ってくる。泊まる"って出掛けたのを見送ったからな。

んで、言ってる間に高校生は補導対象時間だろ。そこまで待っても帰ってこなけりゃ、お嬢様も焦る」



観察眼が特に優れているらしい。

この人には一生頭上がんねえんだろうなと思いながら、その言葉に甘えて今日は奢ってもらうことにした。



「お前が未成年じゃなきゃ、みちる押し付けんのに」



めんどくさそうにみちるさんを見やる黒田さん。

みちるさん、酒弱ぇクセに飲むの好きだからな。




「お嬢様が明日笑顔で帰って来なかったら、

社長にお前が泣かせたって報告するからな」



「どんな秘書だよ」



俺の言葉にも顔色ひとつ変えない黒田さん。

なんだかんだこの人も、鞠に甘い。



「じゃあな、恭。また誘ってやるよ」



「飲み過ぎは良くないっすよ、スズさん」



「うるせえガキ」



ふ、と口角が上がる。

店を出てバイクを家までとばせば、明かりがついていて。玄関を開けると飛びついてきた鞠を抱きとめつつ、仲直りをした、とある金曜日の23時。



【 恭くんとみちるさんと気になるあの人 】



鞠は黒田の過去も、このふたりが裏で仲良くなっていることも知らない。将来仕事でも関わりが増える上に、実はプライベートでも会う。お互い口は悪いが、なんだかんだ気の合うふたり。