「まあでも、そろそろじゃねえか」



「そろそろ?」



「電話」



黒田さんにそう言われた瞬間。

机の上に置いてあったスマホが震え出して、電話を知らせる。相手は鞠で、半ば驚きつつスマホを耳に当てた。



「どした?」



『恭……いまどこにいるの?』



寂しそうな電話越しの声。……何かあったのか?

でもその割には、いつもみたいに泣くのを我慢してる様子もない。みちるさんに呼ばれて飯きた、と返せば『いつ帰ってくる?』と立て続けに質問される。




「適当に切り上げて帰るけど。どこにいんだよ」



『……恭のおうち』



「はあ? 合コンは?」



『……逆に、恭がもし合コン行っちゃったら、嫌だなって思ったから。

結局断って、ずっとお家で待ってたんだけど、』



いつまでも帰ってこないから、と。

そこで鞠の声が震える。前はあんなに意地を張っていたのに、最近は感情豊かに俺の前でもよく泣くようになった。



金曜日にウチに来るとき、たまに俺が先に帰れないこともあるから、鞠には両親に了承をとって合鍵を渡してある。

それを使って中に入り、俺の帰りを待っていたらしい。



「……わかった。すぐ帰るよ」