みちるさんから『いまからメシ来ねー?』と連絡が来たのは、とある金曜日の夕方だった。

普段は鞠が遊びに来ることが多いため、そんな誘いはまず断る。……が、しかし。めずらしく俺は、その日二つ返事でその誘いに乗った。



「よぉ、何気にひさしぶりだな」



「……、は?」



「ん? ああ、」



指定された店に着き、バイクを停める。どうせ未成年で店では酒も飲めねーから、バイクの方が楽でいい。

ちなみにバイクは、婚約した際に「婚約プレゼント」と称して、鞠の父親が新しく買ってくれたものだ。……ぶっちゃけ、めちゃくちゃありがたい。



バイクからキーを抜いて、店に足を踏み入れる。

迎えてくれた店員に、先に来ていることを伝えれば、聞いていたようですぐに個室に通してくれた。



が、問題はそこじゃない。

……みちるさんが、一人じゃなかったことだ。




「なんでここにいるんすか、黒田さん」



普段はぴっしりとキメたスーツ姿だから、ゆったりめの黒いTシャツというラフな私服姿を見て、一瞬誰だかわからなかった。

不意に気づいてその名を口に出せば、彼は「みちるに呼ばれたんです」と言いつつ、先に飲み始めていたグラスの酒を呷る。



……このふたり、知り合いなのかよ。



「んなこと言って。

普段はどれだけ誘っても絶対来てくれねえのに」



「お前は俺が何の仕事をしてるか忘れたのか」



「んー? 橘花家の社長秘書?」



さすがに黒田さんにもプライベートはあるらしい。

堅苦しさを捨てた口調には、どことなくあすみと同じようなものを感じる。かといってそこまで親しい仲では無いし、ひとまずみちるさんの隣の席へと座った。