「とっても美味しかったわ。ありがとう鞠ちゃん」



「いえ、そんな……

こちらこそ、お忙しいのにありがとうございます」



「かわいい息子とその婚約者のためだもの。

……でも、本当に早くお嫁さんになって欲しいくらいだわ」



鞠が手際よく朝メシを作ってくれて。

その手際の良さに感動していた母さん。言っておくが、ウチの母親は昔から完全な仕事人間だから、料理なんてものはまあ出来ない。



俺が食事にあまり執着がないのもそのせいだ。

別に俺はそれが悪いことだとは思ってねーけど、鞠はやっぱり「身体に悪いわよ」と定期的に俺の食生活を気遣ってくれる。



「さてと。……そろそろ帰るわ。

おつかいは終わったし、仕事もまだ溜まってるし」



そして食事中に、ふたりは少し打ち解けたらしい。

鞠の表情が、わかりやすく明るくなった。




「じゃあふたりとも、仲良くするのよ。

……橘花社長、急に押し掛けてすみません。しかも早朝から、ご自宅に押し掛けるなんて」



「いやいや、むしろ手数を掛けてすまないね。

今後とも、親子共々よろしく頼むよ」



ぺこりと頭を下げる母さん。

その姿勢が完璧なくらいに綺麗で、やっぱりこの人も花蔵の人間なんだな、とぼんやり思った。



「今度の行き先は?」



「パパと国内で会って、次はニューヨーク。

わたしはまたしばらく日本を離れるから、もし何かあればパパに伝えて。パパは日本にいるし」



「……何かあったら、連絡ぐらいはする」



特別仲がいいわけでもねーし、こうやって連絡が来る時以外は、連絡も取らなくてほぼ口もきかない。挙句、どこにいるのかなんて知る由もない。

……それでも、俺はこの人の息子であることを否定的に思ったことは無い。