そんなわがままでさえも可愛いと思ってしまう俺の重症さ。

手を引っ張ったまま階段をおりて、キッチンに向かう。キッチンの手前で一瞬リビングの中の様子が見えた俺は、思わず足を止めた。



「……は!?」



「きゃーっ、ほんっとにかわいい。

ウチひとりっ子だから、女の子欲しかったのよねぇ。まだ小学生?可愛すぎじゃない」



「はは、わたしの自慢の娘だよ」



リビングの中で、蒔と遊んでいるその人。

いつの間にか髪を黒く染めた、その人は。



「なんでここにいんだよ、母さん」



昨日ローマにいると言っていたはずの、俺の母親。

……朝っぱらから一体、人の家で何してんだ。




「あら恭。おはよう」



「帰ってこねーんじゃなかったのかよ」



「気が変わっちゃったのよー」



気が変わったところで、昨日の今日でこの時間にローマから帰ってこられるわけが無い。

電話をかけてきた時にはもう帰国していたんだろう。だとしたら、何のための嘘なのか。



「かわいいガールフレンドと手繋いじゃって」



言われて、手を繋いだままであったことを思い出す。

ハッとしたけれど離すのもなんだか違う気がして、手を離すことはしなかった。……というか。



「鞠? どした?」