にこにこ。

まるで穢れを知らない無垢な笑み。



「きょう席替えするんだって……!

仲良しの女の子と近くになれるかなぁ」



「ふふ、それはどうかしら?

普段からいい子にしてたらなれるんじゃない?」



「まき、ちゃんとお利口にしてる……?」



ポーン、と鳴るエレベーターのベル。

開く扉に合わせて外に出ると、エントランスをくぐり抜けながら「そうねえ」と妹に相槌を打った。



「お利口にしてるんじゃないかしら?」



ぱっと、花の咲くような笑み。

小学1年生の彼女は、まだまだ純粋で。できればこのまま育って欲しいなと思う。世に出れば何も知らないままでは生きていけないことを、わたしはちゃんと、理解してるけど。




「ひろくんおはよぉっ」



「ん、おはよ。蒔」



それでも、なんて。どうにもならないことを思いながらガラスの自動ドアを抜ければ、今日もそこで待っていた男に蒔が声を掛ける。

同じマンションの6階に住む、初瀬 紘夢(はつせ ひろむ)



わたしと同じ高校で、しかも同じクラス。

通称ハセがわたしたちを待っているのはいつもの事で、「おはよ」のやり取りを交わしてから、誰からともなく学校へ向かって歩き始める。



「最近あっちぃな」



「……夏だから仕方ないでしょ」



6月ももう終わり。

いつも蒔とは手をつないで登校してるけど、それもずいぶんと暑くなってきた。梅雨が明けてから本当に暑くて、制服の袖を2度折っていても暑い。