「俺が婚約してることは知られてるけどな」



さすがに花蔵を名乗っている以上、学校なんかでは顔を出していなくてもバレてる。

クラスの3分の2は男で学校全体がそんな感じだから、揶揄われることがあっても大体聞かれるのは「相手の女の子どんな子?」だ。



もちろん鞠を知ってる藍華のヤツは面白がって、「美人だよ~」と俺の代わりに答えてる。

……まあ、美人なのは別に間違いじゃねーけど。



「知ってるの?」



「知ってる。だから心配しなくても、」



「じゃあわかっててこういうメッセージ送ってきてるってことよね?

それって知らないよりもタチ悪いじゃない」



あー……怒らせたな。

大きな瞳を不機嫌に染めて、「今ここで返信して」と眉間を寄せる鞠。




「そもそもやり取りしてるの?」



言われるがままにロックを解除して、メッセージを開く。

俺は本当に相手に興味がねーから、適当に相槌を打つような返信しかしてねーけど。こういうことは今までに3度ほどあって。



「……やっぱり返事しないで。嫌だから」



すべてに目を通した鞠は、俺の目の前で相手から送られてきたメッセージを削除した。

クラスメイトということは配慮して、ブロックはせずに置いといてくれるらしい。



「……俺は別に困んねーし。ブロックするか?」



「ううん。なんか負けたみたいで悔しいからいい」



意地っ張りだな。

そんな性格もやっぱり好きで、髪に触れたままだった手で鞠のことを抱き寄せる。