不憫だな、と思う。

ふたりは何も悪くなかったのに、父親のせいでひっそり暮らすことしか出来ないなんて。



当然だが、藤二も辞めたそうだ。



「……俺と婚約しなくてよかった、って。

そんなこと言わなくたって、いいのにね」



自分のせいで、あいつがこんな目に遭うことになってしまった、と。

彼女が少し落ち込んでいるんだと、恭が困り顔で言っていたのを思い出す。……当然そんなことはなくて、悪いのは完全に初瀬の父親なんだけど。



「っつーか堅苦しいから俺着替えてーんだけど。

車で黒田さん待ってるから行こうぜ」



「うん。恭の家寄ってもらおう。

そしたらわたしの着替えも置いてあるし」



またあとで来るわ、と。

恭が鞠ちゃんを連れて出ていくけど、たぶん今日はもう来ないと思う。




恭の家に当然のように置かれている彼女の着替え。

蒔ちゃん優先で生きてきた彼女が最近、妹を置いて泊まりに行くということを覚えたらしい。



週末はよく泊まりに行ってるみたいだし。

……まあ、両親公認な上に片方の親がほぼ帰ってこないんじゃ、そうなると思う。元々付き合っていた信頼も置かれているはずだし、何より恭は男子高校生だ。



「鞠ちゃん無理させられてないといいけど」



「いいんじゃねえの。若くって」



「まあ僕らも同い年なんだけどねー」



誰かと付き合いたいだとか。

そんな願望はなかったけど。恭を見てると、それも幸せそうで悪くないな、とは思う。



ふたりなら。

もう二度と、離れずに乗り越えていくことだろう。