「スマホ見つめてどーした?」



「おかえりなさい。

……そろそろこのスマホも、変えようかなって」



お母さんの形見だからと、ずっと手放せなくて。

今まで使っていたけれど、もうそんなお守りは必要ない。お父さんと蒔と、3人で。……これから歩んでいく未来を、きっとお母さんは見てくれていることだろう。



「そう思ったんだったら。

今がそのタイミングなのかもしんねーな」



「うん。……髪乾かさないの?恭」



わたしには、髪を乾かせと言ったのに。

自分はわしゃわしゃとタオルで拭いて、椅子の背もたれに引っ掛ける彼。



「めんどくせーしな」と隣に座った彼から、ふわりと甘い匂いがする。

目が合えば、どちらともなく距離を縮めた。




「っ、ん」



朝は黒田さんがリビングにいるからと、止められた。

けれどもう、今度はわたしたちを邪魔するものなんて何もなくて。



「……恭」



黒いシーツに、すっかり黒くなった髪が広がる。

電気を消さずにいてくれるのは、わたしが思い出して怖がらないための彼の優しさだろうか。



でもそのせいで、恭のことを直視できなくて。

熱っぽく見下ろしてくる彼から逃れるように目を手で覆い隠す。……恥ずかしいのに、触れてほしい。



「怖くねーか?」



こんなこと、恭以外に思わない。

だからこそ、苦しいくらいに愛おしくて、熱くて。