尋ねれば、もちろん肯定の返事が帰ってくる。

蒔には予定通りの時間に迎えに行き、そのときにしばらくお父さんと住んでもらうことを話すことにした。



「……社長は、元よりそれを望んでおられましたから」



「うん」



家具や家電なんかは、あとで黒田さんを筆頭に橘花の人間で運んでくれるらしい。

そんなに物も多くない家だから、必要なものだけを纏めて、キャリーケースに詰める。



蒔の荷物も別で詰めると、2台分のキャリーケースは黒田さんが車に運びに行ってくれた。

その間に、纏められるものは簡単に纏めておいて。割かしすぐに、引越しできるようにした。



「お嬢様。

社長が、学校のことと家のことでまた話したいそうです。落ち着いたら、ご連絡をお願いします」



わかった、と頷いて。

必要なものだけを持つと、家を出る。




……もう二度と、この家には帰らないだろう。



「鍵もあなたに返しておくわ」



家の鍵を施錠して、黒田さんに渡す。

3人で車に乗り込むと、先に恭の家にわたしの荷物を置きに行くことになった。



「……今更だけど、恭のご両親には伝えたの?」



「社長が直接ご連絡されました。

なんでも、婚約を大変喜ばれていたそうで」



「……婚約?」



婚約ってなに?と、ハテナを浮かべるわたし。

恭もわかっていないようで、隣で訝しげな表情を浮かべていた。