「……もう大丈夫ですよ、お嬢様」
「っ、」
「これ着といてください」
自分の着ていたジャケットを、わたしの肩に掛けてくれる彼。
「1分だけ目瞑っといてください」と言われて素直に従えば、鈍い音が響いて、初瀬さんの悲鳴が聞こえる。
「……お嬢様、行きますよ」
「え、」
目を開けたら、黒田さんに抱き上げられて。
部屋を出る瞬間、何人もの大人が入れ違いで部屋に入っていくのが見えた。中には、警察官の姿もある。
「……よかったです。
無事にセキュリティシステムが発動して」
どこかへと向かいながら、黒田さんが口を開く。
セキュリティシステムというのは、わたしのスマホに組み込まれていたシステムのことだ。
「……うん、」
わたしが何の連絡もなくスマホの電源を落とし、さらに、その後も「間違えて切ってしまったの」という訂正の連絡が、入らなかった場合。
──自動的に、わたしに何かあったと、橘花が動いてくれる警備システム。
瞬時にわたしのスマホの位置も割り出されたんだろう。
電源を切られてから、約10分程度。
駆けつけてくれた黒田さんが、わたしのことを誰よりも早く助けに来てくれたらしい。
10分で来てくれるなんて、相当飛ばしてきてくれたんじゃないだろうか。
……どうにか電源が切られてからの時間を引き延ばそうと思っていたけれど、想像以上に何もできなかった。
怖くて、何も動けなかった。



