何が言いたいのかわからなくて、彼を見つめる。

怖さをかき消す様に、ギュッと手を握り込んだ。



「おかげでウチは、融資を受けるはずだったんだ。

……橘花コンツェルンから、莫大な融資を」



「……それを解消されたから、ですか」



「はは。君にとってはその程度のものだったのか。

……そりゃあ、雲上人には私たちのような下の人間の気持ちなんて分からないだろうけど」



電話ひとつで、父から婚約解消を言い渡されて。

彼は大層ご立腹らしい。……いや、腹を立てるというには、あまりにやり過ぎではないだろうか。



「紘夢とはしっかり話して別れてます。

……お互いに、別れることで同意してますよ」



主導権を握られるなんて、真っ平御免だ。

少しでも心が乱されないよう、落ち着いた口調で返す。ついでに、ここはどこですか、とも。




「あいつは、私がどれだけ苦労して会社を作りあげたかなんて、何も知らない。

今まで苦労しないように育ててきてやったが、ここまで役に立たないとは思いもしなかったよ」



「、」



役に立たない、だなんて。

血の繋がった親子が、仮にも発する言葉だろうか。



わたしと蒔はずっと、お父さんを知らずに生きてきた。

だけど。……お父さんからそんな言葉を言われたことなんて、一度もない。



「ああ、そうだ。邪魔が入ったら困るからね。

先ほど、君のスマホの電源は切らせてもらった」



「っ、なにするんですか」



彼の懐から出てくるのは、わたしのお母さんが使っていた、今はわたしの、白いスマートフォン。

返してと手を伸ばせば、彼はそれをわたしから遠ざけた。そして。