「ホテルでも人と会ったりはするだろ。

そういうの警戒してたら、余計疲れそーだしな」



「……うん、」



「一旦帰って、お前が来れるようにしとくから。

蒔も一緒に来るんだったら部屋空けるけど」



「ううん、蒔はしばらく面倒見てもらうことにする。

……お父さんの家なら、お手伝いさんもいるし」



一応、自分がそこそこの傷を抱えてんのは自覚してんのな。

今までの鞠なら、それでも蒔の面倒を自分で見るとか言い出しそーだけど。その余裕はねーらしい。



「ん。じゃああとでもっかい来るから。

何かあったらあいつらに頼るでも、電話掛けるでもしろよ?」



頷いた鞠に「いってらっしゃい」と見送られて。

エレベーターで下におりると、エントランスを抜けてバイクを家までとばす。




とばすと言っても気持ちだけで、昨日と違ってギリ法定速度。

家に着くとシャワーだけ軽く済ませて、着替えればほぼ準備完了。



鞠からは「黒田さんも帰ってきたし、すこしゆっくりお風呂に入ってくるね」とメッセージが来ていた。

……スマホの充電が切れてるらしく、あすみんとこから送られて来てたけど。



それに「りょーかい」とだけ返して、部屋を見回す。

元々物は少ないから、別に鞠がいつ来ようと問題は無い。



自室だけじゃなくてキッチンやリビングも見て回ったけど、そもそも誰も使わねーんだから汚れてないし。

多少埃っぽいものの、これを掃除してたら遅くなる。



鞠が来てからにするか、と。

適当に家の支度を済ませると、もう一度バイクで鞠の家へともどる。



ゆっくり、と言ってただけのことはあって、マンションに戻ってもまだ鞠は風呂の中で。

念の為風呂場から帰ってきたことを伝え、大丈夫か?と尋ねたら「うん大丈夫。おかえり」といつも通りの返事が来た。



それにほっとしつつ、風呂場を出る。

……大変なのは、ここからだ。