「黒田さんも用事済ませたらすぐに戻るらしい」



「そっか。……恭、一旦帰ったら?

ずっと気張ってて疲れただろうし。服も昨日来たまんまだから、着替えたりしたいだろうし」



俺らが鞠ちゃん見てるから、と。

その口ぶりからして、そのために来たらしい。



「わたしもその方がいいと思う。

帰って、準備してからもどってきて?」



「……ん。何かあったら連絡しろよ」



バイク借りたまんまで来たから、帰るのにも時間かかんねーし。

さっさと俺も済ませて帰ってくるかと、玄関に向かえば、ちょこちょこ着いてくる鞠。



何かと思えば、小声で「恭」と呼んでくる。

どうやら、あいつらに聞かれたくはねー話をするために着いてきたらしい。




「……しばらく一緒にいてほしいの。

今日だけじゃなくて、せめて夏休みの間だけでも、」



「……お前がそうして欲しいなら。

別に俺はどこにいようが困んねーしな」



そこまで言って、ふと「マンションを退去する」という黒田さんの言葉を思い出す。

できることなら、このマンションからすぐにでも離れたいだろう。……だったら。



「しばらく家来るか?」



「え、」



「ウチ一軒家だから、マンションみてぇに他の住人と関わりもねーし。つーか家誰もいねーし。

黒田さんの口ぶり的に、しばらくホテルにでも泊まる予定なんじゃねーの?」



それなら、来たこともあって、あまり気を張らなくて良いウチで過ごした方が鞠も気楽だと思う。

当たり前だけど、俺もずっといるし。