一度来たときに覚えた部屋位置。

「橘花」とだけ書かれた部屋のインターフォンを鳴らす。……しばしの、沈黙。



「やっぱ、いなさそうじゃ……」



「でも俺らに返信もせずに外なんて出ねーだろ。

ましてや出掛ける度にあすみに報告して護衛のことも理解してるような鞠が」



「恭、気持ちはわかるけどちょっと落ち着きなよ」



不信感が募る。そのせいでイライラしているのは自覚してるけれど、それを落ち着かせる気もない。

すこしでも声が聴けたら、何の心配もないのに。



「、」



もう一度、インターフォンを押す。

逸る気持ちをなんとか抑えようとしていたその時。




「……、いま取り込み中なんですが」



男が鞠の部屋から顔を出した。



「おにーさん、誰?」



誰よりも早く、あまり嫌味もないように尋ねたのは暖で。

「黒田と言います」と何の躊躇いもなく名乗ったその男は、なぜかスーツ姿だった。



「……申し訳ありませんが。

お嬢様にはお会いいただけません」



「、」



お嬢様、ということは。

鞠の家の人間か、と頭の片隅で思いながら、ホッとしたのは「会えない」という相反したワードだった。……つまりは、中にいるんだろう。