鞠のマンションまで、バイクなら多く見積っても10分。

外にバイクを止めて前に来た鞠の部屋番号をエントランスで呼び出そうとしていたとき。本当にちょうどそのタイミングで、"あいつ"が姿を見せた。



「……、」



「え、なに? そんな険しい顔して」



「白々しいこと言うんじゃねえよ~。

鞠ちゃん。一緒じゃねえの?」



「……違うけど? 俺別れてから会ってないし」



いまもコンビニ行ってただけなんだけど、と。

見せられた袋の中身は確かに今買ってきたらしいコンビニの商品。本当にただ、出くわしただけ。



……なら、鞠は?




「……本当はセキュリティの問題で、自分の家に呼ぶ相手以外通せないんだけど。

なんか緊急事態みたいだから、今回だけね」



言いつつ、"そいつ"はエントランスのボタンを打ち込んで。

数時間前に鞠がやったのと同じように鍵を回して解除し、エントランスの扉を開けた。



「……悪いな。

どうにも正攻法じゃないと鍵を開けるまで時間がかかる」



「……どうやって開けようとしてたの。

まあいいけど。鞠の家は8階だよ」



エントランスに目もくれずエレベーターに乗り込んで、8階のボタンを押す。

「あとで報告だけ来てよ。下の部屋だし」と言ったそいつは、鞠のことを気に掛けつつも先に6階で降りていった。



「、」



6階から8階に向かうエレベーター。

痛いほど張りつめた沈黙の中、扉が開く。そして。