◆ Side Kyo



嬉しそうに笑う顔も、寂しげな瞳も。

名残惜しそうな表情のひとつだって、誰にも渡せそうにない。……渡せるわけが無い。



「おはよぉ、恭ちゃん」



「はよ。……まあもう夜だけどな」



離れがたそうな鞠をマンションまで見送ったのがついさっき。

その足で藍華のたまり場に顔を出せば、予想通り幹部室には全員が揃っていて。



「で、デートどうだったんだよ~」



「……なんで知ってんだよ」



それはもう、ニヤニヤが止まらない暖とチカ。

口出ししてこないけど絶対に興味はあるなずなと、いつも通り特に何も思っていないだろうあすみ。




「そりゃあ、ねえ。

昨日からずーっと機嫌よかったじゃねえの」



「………」



「そんな機嫌良い状態で"明日来ねーかも"って言われたら、そりゃあお姫様との用事でしょうに」



別に顔にも態度にも機嫌にも出した記憶はねーけど。

暖がそう言うならそうなんだろう。……ま、言われたところで俺が鞠をどう思ってるのかなんて、分かりきってるから構わねーけど。



「楽しかったー? 恭ちゃん」



「まーな」



「そっかそっかぁ。よかったねぇみんな」