あまりにも名残惜しい。

もう一度抱きつく腕に力を込めて。そっと離れる。



「……んじゃ、またあとで連絡する」



「うん……ありがとう」



「ん。……はやく中入れよ。心配だから」



恭が優しくて、心臓がギュッてなる。

見送ってくれる彼にもう一度「ありがとう」を言って、エントランスのパスコードを打ち込む。それから鍵を差し込んで回すと、ガラスの扉が音もなく開いた。



「恭」



振り返って一度駆け寄って、またぎゅっと抱きつく。

一瞬だけくっついたあと、今度こそ離れて、扉が閉まる前に開けたエントランスへと踏み込んだ。




「……えへへ」



ガラス越しに手を振って、エントランスの中にある少し重たい扉の内側に入ると、恭の姿は見えなくなった。

その瞬間まで、ずっと恭が見守ってくれていて。嬉しくなりながら、奥の郵便ポストを覗きに行くと。



「あ、」



「こんにちは」



「こんにちは、初瀬さん」



先客がいた。

ポストから封筒や新聞を取り出していたのは、紘夢のお父さんだ。一度付き合っていたという事実もあることから少し気恥ずかしいけれど、最近タイミングが合わなかったのか顔を見るのはひさしぶりだ。



挨拶を交わして、部屋番号のポストを開く。

中身はちょっとしたDMが来ているくらいで、特に大事な書類なんかは入っていない。