「お父さんは、元から橘花の息子で。
……お母さんは、接待で行ってた店のママで。元からふたりの間には、生活の格差があったの」
巨大なグループの御曹司と、ごく普通の一般人。
そんなふたりだったけれど、とても丁寧で優しかったお母さんの姿に、お父さんは惚れ惚れしてしまったらしい。
「……猛アピールの末、結婚。
でも周りがそれを、許してくれなかった」
大グループの跡継ぎが、夜職の女と結婚。
しかも一般人で、運だけでのし上がってきた女。
橘花の家系は、代々優しい人物ばかりで。
お父さんの両親はそんな嫁のことも大事にしていたのだけれど、橘花の外部からの言い様はひどかった。
「……それでお父さん、
お母さんを匿うために別々で暮らし始めて」
それでも時折会っていたらしい。
だから、数年後にはわたしが生まれたし、その後も会っていたからこそ、わたしには妹がいる。
「お母さんはお母さんで。
まわりに何言われても、わたしと蒔のことを自分の力で育て上げたいって思ってたみたい」
何も文句を言われないくらい。
わたしと蒔を完璧に育て上げようと思ってくれていたらしい。……だから、ふたりは、すれ違ってた。
「お父さん……
お母さんが夜職続けてるの知らなかったんだって」
結婚したあと、お父さんは夜の店に接待だろうとなんだろうと行かなくなった。
だから行きつけだった店に、時間を置いたあと、お母さんがママとして復帰していることを知らなかった。
お母さんは、お父さんと会う時、お父さんがくれたお金で裕福に暮らしているように見せていたらしい。
……お互いがお互いのことを、大事に思ってたから。
「……ずっとお互い大事に思ってたのに。
すれ違ってたせいで、幸せになれなかった」
お母さんが、お父さんからの気持ちに甘えて、違う暮らしをしていたら。
もしくはお父さんが、お母さんの嘘を、ひとつでも見抜けていたら。



