もはや冗談を言われているとしか思えない。
頭が混乱するわたしに、恭がスマホでなにか調べたかと思うと、目の前に出してくるのは『フルールジャパン名誉会長』の肩書きとともに載せられた男性の写真。
下には、恭と同じ名字が書かれてる。
……目眩がしそうだ。
「俺の爺ちゃん。……んで、社長が父親。
俺の両親がずっと家にいないのは、バカみてーに毎日忙しくて帰って来れねーから」
「………」
「……お前の家庭環境が、あったから。
迂闊に言い出せなくて、ずっと黙ってた」
悪かった、と恭に頭を下げられる。
その謝罪は、きっと。
わたしのお母さんに、向けられたものなんだと思う。
……最後まで何も手を、差し伸べられなかったこと。
「……違うの、恭」
「………」
「お母さんは、誰のことも憎んでないのよ」
今の家に蒔と引っ越すことになった時。
わたしは家中のものを片付けた。……だから、毎月お母さんの口座に、とんでもなく楽な暮らしができるほどの振込があったのを、見つけてしまった。
「……お父さんは、ちゃんとお父さんだった。
お母さんはずっとお父さんに貧乏な暮らしをしてることを黙ってて、それで、」
今と変わらず忙しい人だったから、わたしと蒔にはほとんど会うことも出来ず。
それでも、家族を養うために働いて。毎月、わたしたちが困らないほどの資金を、口座に入れてくれて。
それなら、なぜ。
お母さんはシングルマザーとして、過労死するほどに、ひとりで働いて育てる道を選んだのか。



