「……でも"あいつ"と結婚するんだろ」
「紘夢? ああ、そう…、」
そうね、と。
嘘をついて恭の気持ちを煽ろうとしたら、口を塞がれた。……もちろんさっきの宣言通り口で。
「あいつの名前出されると、イライラする」
キスの合間にそう言われて、溶けるかと思った。
それくらい甘ったるくて、こんなにキスを拒めないわたしの気持ちに、いい加減気づいてくれたっていいと思う。
ずっと身体に回されていた腕が、わたしの背をたどるように触れる。
恭のことを誘惑してこいと言われたはずなのに、誘惑されているのはわたしの方だ。
人前とあってか深いキスはされないけど。
1回のキスの時間が長くて、甘くて、クラクラする。
「……鞠」
名前を呼ばれた。
そろりと伏せていた目を開けると、いつもの何倍も甘い瞳で見つめられる。
「……そろそろ拒まれねーと、手出しそう」
「この間怪我した時のは、違ったの?」
幹部室で押し倒されたのは、まだ記憶に新しい。
あの時は言葉すべて拒むことで、恭の前を去ろうとした。……結局、気持ちが弱くて去ることなんてできなかったけど。
「あの時も同じだっつーの。
……だから、お前もちゃんと拒んだんだろ」
そして同じことを繰り返しているのだから、わたしの意志の弱さがよくわかる。
……でも。今度はもう、繰り返さない。



