「……え?」
指さされた方には何も無かった。
そして、何が頬に触れたのかも理解できなくて、じっと恭を見つめる。
「……いま、なにした?」
「さーな」
「……キスした?」
水で濡れた冷たい頬に、やわらかくて冷たいものが触れた。
確認しなくても何となくわかっていたのに、言葉で確かめてしまうわたし。
「わかってんじゃねーか」と言っているから、どうやらキスされたので間違いないらしい。
……え?なんで? 今ここで?
「っ、人混み、なんですけど」
「誰も見てねーよ」
「見てるかもしれないでしょ……!」
いや、違う。怒るところはそこじゃない。
そもそも、恥ずかしいだけで別に怒ってない。むしろ、キスされたことは嬉しくて、それが余計に恥ずかしさを煽ってきて。
「……でも嫌って言わねーんだ?」
顎を掴まれたら、逃げられない。
強制的に目を合わせられて、呼吸が触れそうな距離で。
「拒まねーなら、今度は口にするけど」



