◇
「お姉ちゃん、いくよー?」
「あと3分待って!
お手洗い済ませた? その間に行ってて」
「……もう行ったよぉ」
1泊分の荷物を背負った蒔が、わたしの部屋の扉を開けて覗き込んでくる。
普段なら急かすのはわたしなのに、めずらしく急かされているわたしは、絶賛巻き髪を整えている最中で。
「……でーと?」
蒔にそう言われてしまうくらいには気合が入ってるらしい。
……否定したいけど、無理もない。
服もいつもよりなんだか女の子らしいものだし。
ほとんどノーメイクで、普段は日焼け止めとビューラーくらいしかしないのに、ばっちりメイク。もちろんウォータープルーフ仕様。
挙句、水に入るのに結んだ髪は巻き髪だし。
気合が入ってることは、まったく否定できない。
「さて、行こっか」
「うんっ!」
ポニーテールのてっぺんには薄紫のリボン。
ゆるく巻かれた毛先が動きにゆらゆら揺れるのを確認して、最後にリップを塗ると椅子から立ち上がった。
荷物の入ったバッグと手土産の紙袋を持って、蒔と家を出る。
もう片方の手を繋いだ蒔は、今日も楽しそうだった。
「蒔はできると思うけど、いい子にするのよ」
「ちゃんとできるよぉ」