鞠の手首を掴むと、自分の方へ引き寄せる。

ずるいことなら、もちろんわかってる。……でも"あいつ"のことを好きなら、たぶん、お前はそんな顔しない。



「ここで俺と縁切れよ」



「、」



「何かあっても困るから、あすみとは今後も付き合いを続けていけばいい。

でもここで縁を切ったら、俺はもう二度とお前に会わないし、"お願い"なんて言葉で助けてもやらねーから」



本当に嫌だと思うなら。迷惑だと思うなら。

ここで突き放して、もう二度と会わないと決めてくれたらいい。……そこまでしなきゃ、嫌いになれない。もう会いたくないと、直接言ってもらわないと。



「そんなの、無理に、決まってるじゃない……」



別れた時点で俺らの関係は友人ですらない。

二度と会えない可能性だって、本当にあった。……それでも、別れた時に覚悟を決めたはずの鞠が今こう言うってことは、だ。




「無理じゃねーだろ? 振ることは出来んだから。

このまま離れれば、俺はもうお前に関わらない」



さっきまで困っていた瞳が、時間の経つ毎に水分を増していく。

綺麗な瞳から、ぽたりと雫が落ちるのを見つめて、思わず口角が上がった。



「……ほんとに、馬鹿みてーに可愛いじゃねーか」



引き寄せたままの手で、鞠の後頭部を掻き抱く。

泣いてる姿なんて絶対に見せたくない鞠が、縁を切ると言われただけで泣いてしまうほど、俺と離れたくない。……その理由に自惚れさせろよ。



視界の端に"あいつ"を捉えて、"あいつ"の視線の先がこっちであることを確認する。

それから、無防備なくちびるにくちびるを重ねた。



「じゃあ、どっか一日約束な」



わりーけど。

"あの時"鞠とのキスシーンをわざと見せつけられたこと。……俺はすげー、根に持ってるからな。