さすがにそれ持ったまま入れねーだろ、と。
俺の言いたいことがわかってるようで、鞠がバッグを差し出してくる。それを受け取っていたら、なずなが「熟年夫婦」と呟いたのが聞こえた。
「……ごめんね。お願いします」
「蒔待ってるから行ってやれよ」
すこし遠くで、蒔が鞠を呼んでるのが見える。
それに焦ったように、鞠は「お願いします」ともう一度俺に言って。
「あとでお礼に、ご飯でも奢らせて。
……傷開かないように、ゆっくりしててね」
言いたいことだけ伝えると、足早に蒔の元へと行ってしまう。
その鞠の発言が、不意にとても気になった。
……"傷が開かないように"?
「おい。暖、なずな、チカ」
「なんだよ~、険しい顔しやがって」
平然とした顔をしてる3人。
あすみは黙って様子を見てるものの、俺の言いたいことはわかってるはずだ。……いや、むしろ、あすみも知ってて何も言わなかったんじゃねーのか?
「お前らあいつに、
俺の傷が治ってないって言ったんじゃねーか?」
おかしいと思った。
ずっと目も合わせてこなかった鞠が、急に一直線に俺の元へ来て、"お願い"してきたこと。
席を取っておいてくれ、とこいつらに頼みにくかったから、俺に頼んできたのかと最初は思った。
でも俺より連絡を取り続けてるあすみに頼むことは容易いだろうし、俺に言うより気まずくも無いはずだ。
それでも、わざわざ俺に頼んできた理由。
俺に言いやすいとか、そんなんじゃない。……俺の傷が治ってることを知らねーから、あいつは、休むついでに席を取っておいてくれと言った。



