「さてと。……じゃあ、行こうか」
"あいつ"が、蒔に手を差し出す。
それを蒔が嬉しそうに握って、歩き出すふたりの後ろを見守るようについて行く鞠。本当に、誰が見たって仲の良さそうなカップルとその妹。
降り注ぐ日差しと、揺らめいて反射する水面。
絵に描いたような夏の風景と、穏やかな日常。
……ついて来なきゃ良かった。
「あ、そうだ」
不意に、鞠が足を止めて。
俺らの方へぱたぱた駆け寄ってきたかと思うと、なぜか一直線に俺の方へと歩いてくる。
そのせいで、すこしだけ脈拍が乱れた。
「恭にお願いがあるんだけど」
身長差があるせいで、絶妙な上目遣い。
水着姿で露出度が高い上に、髪がめずらしく纏められているせいで、危うげな色気まで漂わせている自覚が、こいつにあるんだろうか。
「プールサイドに、椅子、あるじゃない?
あれ、蒔が休みたいって言い出した時のために、一個取っておいて欲しいの。……お願いしてもいい?」
確かに、プールサイドには屋根付きの寝転べるチェアがいくつも並んでる。
まだ午前中なこともあって全ては埋まっていないが、人が増えれば埋まるのは時間の問題だろう。
「べつにいーけど。
……つか、わざわざ頼んでくるってことはお前もプール入るんだろ?荷物も預かっといてやるよ」
「……ありがとう、恭」
スマホは防水機能ぐらい付いてんだろうし、写真撮ったりしてーだろうけど。
肩にかかった透明のビニールバッグに、おそらく蒔のものと思しきタオルやゴーグル、財布なんかが入ってるのが見える。



