◆ Side Kyo



『わたし、紘夢と結婚するの』



何度も、頭の中で反響する。

寝ても醒めても、ずっと。



「……うーわ、荒れてんねえ」



部屋に入ってきた暖が、悲惨な机の上を見て苦笑する。

自分じゃ買い揃えたことの無いそれ等は、たまに遊びにくる先代たちが、持ち込んでは置いて帰る酒の山。……この際、未成年ってことは一旦忘れてほしい。



「怪我した時に酒なんて飲んだら、傷痛むよ」



すぐそこのソファで、ずっと様子を見ていたなずな。

何度か「もうやめといたら?」と止められたけど、そんな冷静でいられるなら、そもそも酒を飲むなんて選択肢は取ってない。



……クソったれ。




「そもそも、あんな男のどこがいーんだっての」



鞠の"彼氏"とやらに、会ったことはあるけど。

わざと俺らに見せつけるようなことをしたり、話し方を聞いたり、とても性格が良いようには見えなかった。……そんな男の、どこがいーんだか。



「……出来上がってんな」



カチャリ。

扉が開いて、中に入ってきたあすみは、俺の姿を見てすぐにそう言う。……どうやら、鞠のことを送ってから、帰ってきたらしい。



「遅かったね。……話し込んでた?」



「ああ。……まあ色々な」



当たり前のように話せるあすみにさえ、ジリジリと言いようのない感情が湧く。

どうしたって、俺は鞠に"普通"に話すことなんてできない。