「……恭と、付き合っても。

いずれは、結婚するために、別れるから」



「………」



「もう……恭に別れを告げるのは、ごめんよ」



「……お前ら、遠回りしてんのな」



ふう、と。

ため息をついたあすみくんが、「それでも好きなんだろ?」と問い掛けてくる。



「うん。……好きよ、ずっと」



消えることの無い想いを口に出せば、少しはすっきりした。

誰にも言えない気持ちが、すこし消化されたみたいだ。




「夜遅くに悪かったな。

……ちょっとは、気も晴れたか?」



そのまま歩いて、マンションに到着。

そこそこのマンションとあって、セキュリティもレベルが高い。エントランスまで送ってもらうと、あすみくんがわたしの涙の跡を拭うように、指でそっと触れた。



「うん。……ありがとう」



「ああ。……アイツがどうするかは分かんねえけど、また何かあったら連絡しろよ」



絶対助けてやるから、と。

頼もしいことを言ってくれる彼にお礼を言って、「それじゃあ」とマンションのエントランスのロックを解除する。



「……恭に、よろしくね」



軽く手を上げて、返事してくれるあすみくん。

手を振ったあと、彼を振り返ることは無かったけれど。……なんとなく、もう会うことはない気がした。