昨日だっていつも通りだった。

いつも通り、蒔と一緒に玄関まで見送ったの。



「いってらっしゃい。気をつけてね」って言ったの。

「ありがとう、いってきます」って、返してくれたの。



あたたかい手で、わたしたち姉妹の頭を撫でてくれた。

昨日までその体温は、確かにそこにあったのに。



「おね、ちゃん……?」



痛いくらいの静寂の中で、小さな妹がわたしを呼ぶ。

咄嗟に嗚咽を隠そうとしたけれど、歩み寄ってきた蒔に、しっかり涙で濡れた顔を見られてしまった。



「……いたいの?」



わたしの顔を覗き込む、綺麗な瞳。

受話器もそのままに蒔をぎゅっと抱きしめたら、一瞬はしゃぐ声が上がったのに、すぐに大人しくなった。




「っ……すごく痛いよ」



もっと、向き合える時間が欲しかった。

こんなことになってしまうなら、もっともっと、大好きだって伝えておけばよかった。



蒔と一緒に過ごせる時間を、もっとたくさん作ってあげたらよかった。

そんなに頑張って働かなくていいんだよって、何か一言でも、わたしが言ってあげられてたら。



「っ、ふぇ……っ」



すこしでも、変わったかもしれないのに。



「まき、」



急に妹が泣き出してしまったから、ママさんに「またあとで掛け直します」と告げて、一度電話を切った。

それから、よしよしと頭を撫でるけれど、蒔の瞳からぽろぽろと涙があふれては服にシミを作って消えていく。