でも役に立つのも頼れるのも事実だから、文句は言えない。

……くそ。これさえなければなんとでも言えんのに。



「彼女に、フルールの跡継ぎって言ってないの?」



背もたれを抱える形で座っているなずなは、その背もたれに顎を乗せて俺に問う。

「言ってねーよ」と答えれば、へえ、と意味ありげな声で返された。



「……言えるかよ。

苦労して娘育ててるシングルマザーの家庭だって知ってんのに、言ったって余計な気遣いだろ」



「ま……金持ちだって言われても、ねえ」



「………」



少なからず不便な暮らしをしていた家族に、手を差し伸べてやりたいと思ったのは嘘じゃない。

でも付き合っていたところであくまで他人の俺が干渉していい問題でもなかった。




……だけど。

いまなら、せめて言っておくぐらいのことはすればよかったんじゃないかって、そう思ってる。



そしたら。

あの幼い姉妹は、母親を失わずに済んだかもしれないのに。



「……そういや。

みちるさんから、『最近どう?』って連絡きてたよ」



さらっと、砂時計の砂がすべり落ちるみたいに。

何気ないトーンで切り出すなずなに、「そうかよ」と一言で済ませる。俺と鞠の中学で保健医だった、藍華のOB。



「みちるさんって恭のこと大好きだよね」



「あーいうの、おせっかいって言うんだよ」



鞠のことを知っているから、別れたときも細々と連絡してきたのがみちるさんだ。

……放っといてくれても、べつに死にはしねーよ。