◆ Side Kyo



「『橘花コンツェルン代表取締役社長』?」



なずなに渡された資料に書かれたその肩書きを、じっと見つめる。

明朝体で経歴が並べられたその紙は、橘花コンツェルンの子会社を紹介するホームページを印刷したものだ。



「そう、その橘花社長だよ。

恭の元カノが住んでる部屋の契約者」



わざとらしく"元カノ"なんて言うなずなに、思わず舌打ちする。

……が、いま気にするべき問題はそこじゃない。



「なんであいつが橘花の社長と関係してんだよ……」



俺がなずなに契約者を調べてくれと頼んで、数日。

面倒だが受けないと進級させてもらえないテスト期間も無事に終えたあと、手渡されたのがこの資料だった。



あのマンションに住んでるわけだし、契約者と何らかの関係があるのは間違いない。

……ということは、進学先が俺の知ってるのと、違うのも。




「橘花って、裏で黒い噂とかなかったか?」



「うーん……会社が大きければ大きいほど、不祥事とかは隠蔽されたりするけどね。

橘花コンツェルンは社長が腕利きでほかに例がないほどのホワイト企業。悪い話も聞かないよ。──というかさ、」



はらり。紙をめくる音だけが、やけに響く。

なずなが「作業に集中するスペースが欲しい」とわがままを言ったことで物置を整頓し、強引に造られたわずか2畳ほどの部屋。



キィ、とキャスター付きの椅子を回転させたなずなは。



「この話なら、むしろ俺よりも恭の方が詳しいでしょ。

フルール・ジャパン跡継ぎの御曹司さま?」



「……うっせえよ」



ふっと、腹の立つ笑みを浮かべてみせた。

……コイツと話してると、神経を逆撫でされる。