「鞠の一番は、何があっても絶対蒔だけど。
……ほんのちょっとだけ、俺が鞠の一番をもらってもいい?」
蒔の瞳が、ゆらゆらと揺らぐ。
相手はまだ小学1年生の女の子なのに、なぜか話すのに少しばかりの緊張を伴って。
「ひろくんがお姉ちゃんの一番になったら、
そのときは、お姉ちゃん、うれしい……?」
蒔の返事を聞いた俺が、なんだか泣きそうになってしまった。
まだこんなにも小さくて幼いのに、蒔が優先するのは自分の気持ちじゃなくて、鞠の気持ち。
一緒にいる時間は長いのに、俺は蒔が鞠をとことん困らせるようなわがままを言っているのを、一度も聞いたことがない。
それが蒔なりの、心の底からの、優しさだった。
「……うん。うれしい」
言葉に詰まった俺の代わりに。
鞠が穏やかな声でそう返したかと思うと、蒔はまた満面の笑みを浮かべてみせた。
「じゃあ、いいよ」って。
大事な大事な鞠の一番を、譲ってくれるって。
何の曇りもないその瞳が、ひどく眩しい。
「……蒔、ありがとな」
「どういたしましてー」
わしゃわしゃとその頭を撫でたら、無垢にはしゃぐ声が上がる。
この笑顔ひとつに鞠の努力が数え切れないほど込められているなら、俺は絶対に守ってやりたい。
「お姉ちゃんのことだいすきなの、ひろくんと蒔はおそろいだねー」
──何があっても、絶対、に。



