きょーちゃん、って。
……俺の読みが正しければ、鞠、の。
「きょーちゃんはお姉ちゃんの、いちばん大事な人だもん。
ほかの女の子に、取られちゃやだよー」
不安そうな顔をしていた鞠が目を見張って、それから一瞬泣きそうな顔を浮かべる。
だけど涙の気配を見せることもなく、鞠は静かに笑ってみせただけだった。
……微塵も、笑えてはいなかったけど。
「……ハセ。
この子に好きな人の話はまだ難しいから、用件だけ先に言ってあげて」
「……、わかった」
逃げるように、キッチンに入っていく鞠。
その心情なんて、手に取るようにわかった。
……俺が言った、好きな人の、話。
それを聞いた蒔が自慢げに「きょーちゃん」と答えた理由なんて、最初からひとつに決まってる。
鞠の中じゃ、まだ消えてない。
付き合ってもまだ、どうしても、俺じゃ足りない。
「蒔。俺にとっていちばん大切な女の子は、鞠なんだよ。
誰よりも大事な、いちばん大事な、女の子」
根本的に何か引っかかってるものがある。
それを取り除いてやらない限り、鞠は絶対に俺を好きになってはくれない。
そう言い切れる自信は、なぜかあった。
逆に言えば、好きになってもらえる確率は、限りなく低いってことだ。
「大好きだから、ずっと一緒にいたいって思ってる。
……だからさ、蒔は妹として鞠のそばにいるけど、俺は『彼氏』として、鞠のそばにいたい」
恋も知らない女の子に、彼氏なんて言って伝わるのかはわからないけど。
ニュアンスで感じ取ってくれているのか、蒔は俺をまっすぐに見つめたままだ。



