「帰ろ、ハセ。……時間がもったいない」
彼の服をくっと引くと、ハセは一瞬迷うように果歩を見た。
だけどわたしの隣に並んで歩き始めると、「いいのか?」って尋ねてくる。
「いいって、なにが?」
「糸井。……お前ら、仲良かったじゃん」
ハセにそう思わせることができているなら、果歩の策略は成功と言えるだろう。
わたしと付き合った以上、その先の展開は望めそうにないけど。
「果歩が心配なら、もどってくれてもいいけど」
「いや……心配ではあるけど、さ。
俺はやっぱ、鞠と一緒に帰るよ。お前の方が心配だし」
ぴたっと、足を止める。
それに驚いたようにハセが足を止めて、一瞬だけバランスを崩した。
「どした?」
「……心配って、なに?」
文句とか不満とか、そういうことではなく。
心配という言葉の意味を、うまく理解できなかった。
優しいハセが、果歩を心配するのはわかる。
そういう性格だってことも知っているから、責めたりもしない。
だけど。
……わたしの方が心配って、どういう意味?
「なにって……糸井がほんとにお前のこと利用してたのかは、知らねえけど、さ。
仲良かったんだから、お前もショックだったんじゃねえの?」



