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わたしとハセの関係が恋人に変わっても、わたしたちの何かが変わるわけじゃなかった。
恭に抱きしめられても、泣いても、何も変わったりはしなかった。
──ただわたしの気持ちが、不安定に揺れているだけで。
ちょうどわたしとハセが付き合ったのは、テスト2日前の土曜日。進学校なだけあってみんなテストに集中していたから、改めて付き合うことになった話もまだ広まってない。
そしてその進学校の学年主席と次席が呑気に遊んでいる暇もなく、わたしたちの関係だって平行線。
だからこそ。
「鞠、今日うち来ねえ?」
テスト最終日。
みんなが「終わったー」と解放に満たされた顔をしている教室でハセがそう言った時は、さすがに教室がざわついた。
……こんな目立つタイミングで、言わないでよ。
片想いしているハセと、その相手であるわたし。
本来なら、その関係性で家に誘うっていうのは、色々と問題が起こる。何よりそんな関係ではないことを、周りのみんなはよく知っているわけで。
「ま、鞠ぃ?
ハセくん確かに良い男だけど、家に行くのは……」
果歩がすごく心配そうな顔をして、わたしの顔を覗き込んできた。
なんだかんだ言って遊んでいる果歩と違って、仮にもわたしは優等生を演じている。
「構わないけど。お昼どうするの?」
前に彼氏がいたことも話していないし、鉄壁の女と言われた時期もあったから、そもそも彼氏がいたなんて夢にも思っていないんだろう。
だから果歩は、わたしの返事に目を見張った。
「簡単に男の家に行っちゃだめ!」
「簡単に行かないし、誰の家にも行ってない。
あと果歩、勘違いしてるとこ悪いんだけど、」