「起きちゃったの? ……うるさかった?」



「うう、ん。おきちゃっただけだよー」



先に言ってあったからか、黒田さんは何も言わずに指輪の入っていた箱を紙袋に片付けた。

蒔に気づかれないように指輪を外して、ポケットに入れる。



「蒔、ご挨拶して?」



「こんばんはぁ……」



あきらかに眠そうな声。

「こんばんは」と優しく返す黒田さんの声色はいつもと変わらないのに、いつもよりもすこし柔和に聞こえた。



席を立って紙袋だけを受け取り、玄関に向かう。

蒔にすぐに行くから先に部屋にもどるように言えば、「さよなら」をちゃんと彼に告げてから部屋へと入っていった。




「……蒔お嬢様も、立派になられましたね」



「それはどうも。

あの子のことを育てたのはわたしですから」



「ええ。……おふたりとも、とても素敵ですよ」



革靴に足を入れた黒田さんは、「またご連絡致します」とだけ告げて、あっさり帰っていった。

手の中に残る紙袋。ポケットの中の指輪。



「お待たせ。……いっしょに寝よう?」



自室に入ると、わたしのベッドの中にいる蒔。

隣に入ってその身体をぎゅっと抱きしめると、蒔はうれしそうに頬をほころばせた。



……ずっと、このまま笑っていてほしい。