「西澤さん。

悪いんだけど、ちょっとだけ待っててくれる?」



「え? あ、はい」



「ん、ありがとう」



わたしの返答にすこし微笑むようにして、先生は恭と部屋を出ていく。

どこかに行くのかと思いきや、ふたりは教室の前で何かを話しているみたいだ。



……保健室の先生と話す用事って、なんだろう。

もしかして、恭の具合が悪かったりするのかな。



「……きになる」



機嫌も態度も悪かったのに、思った以上に長々と話しているふたり。

そして不意に扉が開いた音で視線を持ち上げても、そこにもう先生の姿はなかった。




「おかえり。なに話してたの?」



「あー……まあ、家の話」



「家の話? ……春野先生と?」



担任の先生とかならまだしも、どうして春野先生?

春野先生って何か保健医の仕事以外で担当とかしてたっけ?と思い返すけれど、わたしが答えを見つけるよりも早く、恭が口を開いた。



「あの人、昔から知り合いなんだよ」



「あ、そうなの」



「だから別に心配するようなことはねーよ。

……んで、これ。俺を借りた分のお礼だとよ」