「ずるい……?」



「ずるい。

……そうやってなんでも前向きにしか捉えねーけど、たまには俺に文句のひとつもねーのかよ」



「文句……? ないけど」



恭に対して、文句なんて何も無い。

好きだと言ってもらえて、そばにいてくれて、こうやって当たり前に触れてもらえるのに、どんな文句が出てくるっていうの。



「……ぎゃくに、恭はわたしに何か思ってるの?」



そもそも、恋人なんて所詮は他人で。

家族ですら上手くいくとは限らないのに、価値観の相違があったとしても、それは普通のことだと思う。



そして、もうひとつ。

文句を言えるほど、わたしは大した人間じゃない。




「あ? あー……

もっと文句言えばいいのにな、っつーのが文句」



するりと、髪から指が抜けていく。

その指先はわたしの頬に触れて、髪色をそのままうつしたみたいにわたしの頬を色づかせた。



「あ。あともうひとつあった。

……お前が可愛すぎて、たまに腹立つ」



「っ……なにそれ」



顔がどんどん赤くなっているのがわかる。

だってすごくうれしくて、はずかしくて、熱い。



「だから、こういうことだっての」



くちびるが重なって、頭がくらくらする。

盗み見するみたいに閉じたまぶたをこっそり持ち上げたら、目が合ってしまって、またきゅんとした。