手を上げて、手伝いを申し出てくれる蒔。

支度している間に、彼女は今日あったことをたくさん話してくれるのだけれど。



「……? おねえちゃん?」



「え?」



「おはなし、聞いてる?」



全くと言っていいほど頭に入ってこなくて、とっさに取り繕った笑みを貼り付けた。

聞いてるわよ、と言ってみたけれど、それを信用していないのか蒔の表情は不安そうなままで。



「蒔、おはなしの続きは?」



そんな顔、させたくないのに。

蒔には不安も心配もさせずに、笑顔で過ごしていてほしいの。蒔のしあわせが、わたしのいちばんのしあわせだから。




「えっとね、それでね?」



大切だと思えるのは、蒔ひとりだけ。

そのためには、自分の気持ちも閉じ込めてしまえると、思ってた。──だからあの時、わたしは。



『わたしと……別れて、ほしいの』



この世でいちばん大切な人の手を離した。

蒔が、わたしのいちばん大切な存在になったから。



自分のことは後回しでいい。

たとえ引き裂かれそうなほどの胸の痛みを味わうことになったとしても、蒔を幸せにするためになら、我慢してしまえると。そう思ってた。



『……俺んとこ、もどってこいよ』



忘れることなんて。

できないと、はじめから知っていたのに。