ぎゅう、と腕を回してくる蒔。

頭を撫でてから目線を合わせると、やっぱり彼女は曇りのない表情でわたしを見つめ返した。



「おかえり。ご挨拶ちゃんと出来た?」



「うん! お靴もちゃんとそろえたよ!」



「ふふっ、えらいじゃない」



わたしを困らせるようなわがままを、蒔は言わない。

さみしくても悲しくても我慢させていることが不甲斐ないと思ってしまうのに、それに"助かる"と甘えてしまう自分のことが嫌いになりそうだった。



「おかえり、蒔」



ふふっと微笑み合っていれば、カチャッと開く扉。

蒔の「ひろくん!」と弾んだ声に、至っていつも通りに接する。服装だってちゃんと、いつも通り。




「ただいまぁ。

おねえちゃんとひろくん、いっしょにいたの?」



わたしとハセの間にあった出来事なんか、蒔は知る由もない。

知ったところでこの歳の女の子には理解できないだろうけど、もちろん教えるつもりもない。



「一緒にお出掛けしてたのよ。

そうだ、蒔の新しい水着選んできたからあとで一緒に見ようね」



「うんっ!」



「さてと、夕飯の支度しましょうか。

蒔は手洗ってらっしゃい。ハセはどうするの?」



抱きしめていた蒔を離すと、彼女はぱたぱたと洗面所に駆けていく。

それを見送ってハセを振り返れば、「あー」と一瞬悩んでから。



「今日は帰るわ。親にも連絡してねえし」