何も根回しをしていないのに、書記の席は前日まで空いたままだった。
無意識に牽制してしまったのだろうか。
…まぁ、どちらでもいいか。
1時間目の授業が終わってから、5組に移動する。
「ごめん、ユート呼んでくれるかな。
川崎裕斗。」
「あっ…、はいっ…!」
廊下にいた5組の女子にユートを呼び出してもらう。
すぐにユートが廊下に出てきてくれた。
「どうした?」
「今日の放課後、
兎羽を生徒会室に来るように仕向けてほしい。」
「はぁ?なんでまた。」
「書記の枠が1つ余っている。」
「なるほどな。
でもぜってー嫌がるだろ。」
「どうとでもなるよ。
俺の私的な感情を抜きにしても
彼女の能力は人より高い。」
兎羽が書いた文字を思い出して口角が上がる。
周りをよく見ることができて誰にでも優しい兎羽。
そんな兎羽を具現化したような優しく柔らかいバランスのとれた文字。
兎羽が書いた俺の名前が、自分の名前とは思えないくらい輝いて見えた。
兎羽の字は、他の誰かじゃ書けないんだ。
能力が高いユートですらも。
「どうとでもなるって…。
お前トワが好きなんじゃねぇのかよ。
好きな人が嫌がるって言われた時の回答じゃねぇだろ。」
「好きだよ。大好きでたまらない。
兎羽に拒否されても、手元に置いておきたいんだ。」
「おま…。
犯罪に手を染めるようなことはすんなよ…?」
「当たり前。
じゃ、上手く兎羽を生徒会室に寄越してね。
もちろん俺が呼んだってバレないように。」
「へいへーい。」
ユートに念押しをして、自分の教室に戻った。
これで久しぶりに兎羽に会える…!
勝手に高鳴る自分の気持ちを抑えようとは思わなかった。



