「…俺はね、感情がなかったんだ。」


「感情が、ない…?」



「喜怒哀楽、全て感じられなかった。

 何をしても、何をされても、

 何にも感じなかった。」



「……。」


嬉しさも悲しさも、何にも感じられない…?


そんなことってあるの…?




「別に俺だけが異常な訳じゃないよ。

 100人に1人くらいの確率でいるらしいから、

 さほど珍しくもない。」


何も言えず、下を向く。




当たり前にある感情が、全くない世界。


想像もできない。




「自分の感情を感じられず、

 他人の感情を読み取ることに長けている。

 それが俺の持病みたいなもの。」




「一度も、感情を感じたことがないんですか…?」


「兎羽に会うまではね。

 生まれつきのものだし、

 これが普通だと思ってたから問題はなかったよ。」



私に会うまでは…?


そういえば、時々先パイ達がレオ先パイの表情を変えられる私はすごい、みたいなことを言っていた気がする。




「なんで私が…?」


「なんでだろうね。俺にもわからない。

 でも、兎羽を見た瞬間に

 欲が、感情が溢れ出したんだ。

 自分で自分をコントロールできなくなるくらい。」



「そう…、だったんですね…。」


運命だとか、特別だとか。


私が思っていた以上に深い意味があったなんて。




「兎羽のことが大好きなのは本当だから。」


「っ…!」


真っ直ぐな言葉に、心が跳ねる。




「返事は、文化祭終わってからでいいから。」


「は、はい…。」



変わらない優しい笑顔を見せてくれるレオ先パイに、私は頷くことしかできなかった。